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November 12, 2005 Saturday 

アンボス・ムンドス

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桐野夏生 文藝春秋

桐野夏生氏が最も得意とする、女性の内面を徹底的に追求した短編集である。怪作「グロテスク」で発揮された女の嫉妬心や理不尽な処遇への怒りの描写を凝縮したような作品も多く、短編集とは思えない濃厚さで読む者に迫ってくる。
ただ、そういう傾向の作品の中で表題作の「アンボス・ムンドス」は少々趣を変えている。女性が一人称で「作家」に語るという形式を取っているために、読み始めはやはり「グロテスク」のようなタイプの作品かと思われたが、ラストにいたってこれはある意味で本格ミステリなのだとわかった。

この本の帯には、「アンボス・ムンドス」に登場する恋人からの手紙の文面が一部引用されているのだが、その「一日前の地球の裏側で、あなたを待っています。」というところだけ読むと、昨今流行の悲恋ものだと読者をミスリードしているようにも見える。確かに悲恋ものではあるのだが、いわゆる「泣かせ」系だと思って読むと、作品の根底にある「悪意」に衝撃を受けるだろう。
傑作短編集である。

ISBN4-16-324380-1 ¥1300+税

投稿者 Miyuki Noma : 13:26