« θは遊んでくれたよ | メイン | 切れない糸 »

June 01, 2005 Wednesday 

賢者はベンチで思索する

近藤史恵 文藝春秋

「思春期」から少し大人になった少女と謎の老人の物語。バロネス・オツツィの「隅の老人」を彷彿とさせる展開でもある…と書いてしまうのは少々ネタバレだろうか。

近藤氏の小説を読むといつも抱く感想だが、筆者が人間を描く目線はいつもとても優しい。おそらく本人はそんな風には思っていないだろうし、人一倍批判的な目線も必ず持っているはずではあるのだが、それでも「小説」という形になったとき、彼女の描く登場人物は、そのまま等身大の姿で読者の前に現れるのだ。

この作品には3本の中編が収められているが、そのどれもが日常的な生活感の中で誰もが抱いている不安や起こりうるトラブルが丁寧に描かれている。特に第一話の犬の話などは、しばらく前から愛犬と暮らしている筆者の経験が生かされているような気がして微笑ましい。
最終話のラストも後味のいいものだった。

私がこう言うのも僭越だが、とても「いい作品」だと思う。ぜひみなさんに読んで欲しい。

ISBN4-16-323960-X ¥1700+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:02