どんな人が漫画家になれる?
 あなたはどのくらい漫画が好きですか? 寝食を忘れるくらい?
 出版社における暗黙の年令制限について ……デビューするにはもう遅い?
 人間関係:編集さん&アシスタント ……変わり者はどっちだ!?

 あなたはどのくらい漫画が好きですか?


 「あなたはどのくらい漫画が好きですが?」と聞かれてどう答えますか?
 もしも、「まあまあ」とか「けっこう好き」という程度だったら、漫画家志望の看板は今すぐはずしましょう。はっきり言って「好きで好きでたまらない!」と答えられなくては、漫画家としてやっていくことは不可能です。
 漫画を描くことが本当に好きでないと、〆切の重圧や責任に耐えられなくなってしまうでしょう。

 世の中には稀に才能に恵まれた人がいて、それほど漫画に情熱がなくても、運良くプロデビューを果たし、そのまま人気作家になる人もいますが、そういう人の場合でも、必ず仕事に行き詰まって悩む時期が来ます。そのときに、漫画に対しての情熱が薄いと、漫画家でいることが嫌になってやめてしまうことになるでしょう。

 また、一部の特殊な例ではなく、普通のプロデビューだとすると、デビュー後に次回作の掲載のために、編集会議などを経由することになります。このとき、当然なんども「ボツ」になったりするわけですが、漫画が大好きでないと、「やってられないよ」という状態になるわけですね。
 新人漫画家に対して、担当編集者はそれほど親切ではありません。自分から連絡を取って、まめにネームやアイディアの話を提出し、存在をアピールしなければなりません。そういうときにも、「漫画の好き度」が大きく影響します。

 そして、これは漫画家になることとは直接関係ないかも知れませんが、漫画家志望の人の多くは、アシスタントをアルバイトとして経験します。そのときに漫画を描くことが大好きでないと、一つの場所に閉じこもって何日も作業をすることはできないでしょう。

 とにかく、描くことが好きであること。これは当然のようですが、とても重要な漫画家になるための絶対条件なのです。
 出版社における暗黙の年令制限について


 漫画雑誌が受け付けている投稿の募集フォーマットには、普通、年齢制限の記載はありません。何歳からでも何歳まででも投稿できます。でも、それを受け付ける側には、暗黙の年齢制限があるのです。

 例えば、ここに2本の投稿作品があり、同程度の評価をされたとしましょう。でも、一方の作者は18才、もう一方が25才だとしたら、編集部ではもちろん18才の方を優先して受賞させます。

 25才、という年齢は、少女漫画界ではある種のターニングポイントで、この年齢までにデビューを果たせないと、その後かなり難しくなります。難しい、というのにもいろいろ理由があるのですが、最も顕著なのは、このくらいの年齢のときまでにその人の画風や作風がある程度固まってしまうことでしょう。つまり、25才で、ある程度水準には達していても、そこからのさらなる成長があまり望めないということなのです。

 また、少女漫画の場合、作者の感性で勝負していく部分が多いので、技術的に完成度が高いものよりは、荒削りでも若さが溢れているものが尊重されるということもあります。もしもあなたが少女漫画家を目指すのであれば、なんとか25才までにデビューのきっかけを掴むように頑張って下さい。

 少女漫画以外では、例えばレディースコミックなどでは30才程度までなら大丈夫です。でも、このくらいになると、即戦力を求められるので、出版社側に育ててもらうことを期待してはいけません。ある程度の作画技術や話作りのテクニックは身につけて勝負しましょう。

 少年誌の事情はよくわからないのですが、少女誌と近いのではないでしょうか。また、青年誌の方になると、この年齢制限はほとんど関係なくなってくるような気がします。  
 人間関係:編集さん&アシスタント


 漫画家も編集部員もアシスタントも人間です。そこにはおのずと個人の好き嫌いが発生します。漫画家は他の職業に比べてあまり社交性を必要としませんが、やはり人間関係を円滑にできない人は業界で残って行くにも難しいものがあります。担当編集者とは「打ち合わせ」という形でまめに連絡を取りあうものですし、売れっ子になればアシスタントを雇うことも多いのです。なるべく社会人として常識的なマナーや考え方は身につけておきましょう。

 「漫画を描くために最初にすること」の章でもちょっと触れましたが、自分の描きたいジャンルを明確に持つことはとても大事なことですが、それにこだわるあまり、編集サイドの要望を無視するようでは、プロとは言えません。

 私が漫画家になったときと、今では多少事情が違いますが、当時は「ファンタジー」を描きたい人はとても苦労していたようです。あのころは「学園もの」が少女漫画の主流だったので、それを描けないと雑誌に掲載してもらえないことがよくありました。編集部の片隅で「でも、私はそういうのは描きたくないんです!」という声を聞いてしまったこともあります。(最近はもちろんファンタジーでもOKですが)
 また、私自身は昔からミステリを描いてみたかったのですが、自分の技量がどの程度なのかもわからない時期に、それを描かせて欲しいと言い出すことはなかなかできませんでした。ですから、ある程度自分の地位(?)を固めてから実行しようと企んでいたのですが、結果的にそれは描きたいものを描く前に他のジャンルで基礎を勉強させてもらえたことになり、とても良いことだったと思っています。

 まず、編集さんにこちらのことをわかってもらうように努力して、それから少しづつ自己主張する機会を窺いましょう。

 アシスタントとの軋轢も、漫画界ではよく耳にする話ですが、このことは主に雇う漫画家側にアシスタントの経験がなかったりすることが原因のようです。
 つまり、雇われる側の苦労を知らないまま漫画家になってしまうと、仕事場の環境などをどの程度整えたらいいのか知ることができないからです。自分の仕事の大変さに甘えて、アシスタントの気持ちをおろそかにすると示し合わせて一斉に辞められてしまったり、ということにも発展しかねません。

 また、雇われる側の心構えですが、給料などのシステムは漫画家によってけっこう差があります。そこのやり方に馴染めなかったら、辞めるしかないのですが、そういった情報は横のつながりだけが頼りなので、先輩アシスタントに相談しましょう。
 だた、アシスタントとして呼ばれた以上、そこにいる間の時間は拘束されていることは肝に銘じておく必要があります。プライベートなことで、約束の日数をキャンセルしたりすると、大きな迷惑をかけることになるので、最初にきちんと確認してから行くことです。

 稀に、猫アレルギーなどで、仕事場に到着してから「やっぱりダメです」と言って帰宅してしまう人がいるようですが、自分の体質などはなるべく正確に把握しておきたいものですね。
 食べ物の好き嫌いなども、食事のときに困ることがあるのでどうしても食べられないものやアレルギーの出るものがある人は、前もって雇い主である漫画家に説明しましょう。

 煙草に関しても、多くの問題を孕んでいることのひとつです。自分が喫煙者で、漫画家の仕事場が禁煙だった場合はもちろん我慢しなければなりません。逆に、漫画家が喫煙者で自分が煙草が嫌いでも、先生に向かって「煙草を吸わないで下さい」という権利はありません。我慢できなければ辞めるしかないでしょう。
 このあたりのことは、それぞれの仕事場の雰囲気を掴んで行くことが肝心です。