物語の中のジュエリーたち …6…
 この「物語の中のジュエリーたち」の連載も今回で最終回です。最後に、私の「ジュエリーコネクションシリーズ」に出てきた宝石について書かせていただきますね。

 「ジュエリーコネクションシリーズ」は、1989年の春から「セリエミステリー」でスタートした、宝石をモチーフにしたミステリ漫画です。
 後半、掲載紙が「セリエミステリー」から「シルキー」に移りましたが、HLC『香港翡翠幻想』までで12冊という、当初考えていたよりもずっと長いシリーズに成長しました。
 その後ブランクを経て、1998年暮れからは、「別冊花とゆめ」にて「新ジュエリーコネクションシリーズ」を展開しています。
 このシリーズが、こんなに長く続いたのは、主人公の性格がけっこう明るく作れたことや、梶野に過去があったりして私のキャラクターには珍しく影のある男が描けたこと。それになんと言っても「宝石」というテーマそのものが、いかにも謎や事件を孕んでいそうなものだったからでしょう。
 このエッセイでもちょっとだけ紹介しましたが、「宝石」は、その美しさと高価さで、伝説にも欲望の対象にもなりやすいのです。フランス革命当時のマリー・アントワネットも、王室の財政を傾けるほどの宝石を買ったと言われていますし、そのイヤリングなどは、今でもスミソニアン博物館などで見ることができます。

 さて、では今までに「ジュエリーコネクションシリーズ」に登場した宝石で、もっとも読者の方の反響の大きかったのはなんだったと思われますか?(読んでいない方ごめんなさい)

 作中に登場した
コンクパールリング
 実は、「ばら色真珠の秘密」で取りあげた「コンクパール」なのです。
 ご存じない方のために説明すると、コンクパールとは、カリブ海で採れる「コンク貝」という巻き貝の中にできるピンク色をした非常に美しく珍しい真珠です。
 普通の真珠は、あこや貝などのように2枚貝で作られるのですが、当然今は養殖のものが主流になっているので、供給も安定しています。でも、巻き貝は、2枚貝のように口を開いて真珠の核になるものを入れることができませんよね。だから、コンクパールの養殖は不可能なのです。


  コンク貝
 1920年頃は、もともとコンク貝が食用だったこともあり、ある程度の量が出回って流行したことがあったそうですが、乱獲で数が激減し、最近では本当に稀少なものになってしまいました。
 ミキモトなどの真珠専門店のギャラリーなどでは、展示されることもあるのですが、商品として出回るのはごく珍しいようです。
 その、「珍しい」という点を使って人捜しの話を作ったのですが、雑誌発表時もコミックスになってからも、いただくお手紙には「私もコンクパールを見てみたいです」という内容のものがとても多いですね。
 実は、私も「ばら色真珠の秘密」を描いたときは、写真でしかコンクパールを見たことがなかったのですが、それを描いてしばらくしてから、ミキモトの通信販売でコンクパールが出るという事態に出くわしました。
 あるカード会社の会員に来るカタログの中だったのですが、指輪が3種類、ペンダントが2種類、ブローチが1種類の6点で、数はごくわずかだったようです。
 もちろん珍しいものなので、1点が軽く100万円を越えるのですが、このチャンスを逃したら、もう2度とコンクパールを手に入れることはできないと思い、清水の舞台から飛び降りるつもりでペンダントとリングを買う決心をしました。
 ところが、残念なことに、私が電話をかけたときはすでに何件か申し込みが来ていて、カタログに掲載されていたものはなくなってしまっていて、結局写真のものよりは若干色の薄いパールを注文しました。
 それでもペンダントはサーモンピンク。リングは夢のようなベビーピンクで、いまでも私の持っている指輪の中でも最高ランクです。この買い物のおかげで、しばらくの間はやりくりが大変でしたが後悔はしていません。  宝石は、いくら好きでもあまりに高価なので、思うように収集することは私には到底不可能ですが、それでもこうしてたまに無理をして手に入れると、一生の宝物として心の支えになってくれます。
 でも、夜中に宝石を眺めてにやっと笑う女というのも不気味かも。(笑)

オーダーで作られた
  本物のリング

【補足】私の読者の方で、「どうしても作中に登場したものと同じコンクパールのリングが欲しい」とおっしゃってコレクション内藤にオーダーを出した方がいらっしゃいます。出来上がったリングの写真を撮らせていただきましたのでご覧ください。
 次に反響が多かったのが「閃光のサフェイロス」で取りあげた「スターサファイア」です。
 サファイアやルビーには、結晶の方向のせいで、稀に6条の「スター」の出るものがあります。(水晶などにもスターが出るものがあります)
 この「スター」は上から光を当てたときだけに出るもので、カボッション*に磨いた石の表面に沿って輝く光は、何とも言えず神秘的で美しいものです。
 *カボッション=楕円形に角を取らずに磨くカッティング方法。トルコ石など、不透明な石に多く用いられる。  この「スター」が出る石は、色の綺麗なものが少ないので、いわゆるサファイアの澄んだ青や、真っ赤なルビーでスターのものは本当に稀な宝石だと言えるのです。
 スターが出ていても、線が歪んでいたりくっきりしていないものは価値が下がります。
 まれに素性のよくない宝石屋が、スターの形の悪い石を「こんな形に光るのは珍しい」と偽って売るケースもあるようですが、ルビーやサファイアのスターは、石の中心にきれいな6条の筋が走っているものが最高です。これはキャッツアイなどの光も同じこと。真ん中が光っているものの方が当然価値は高いので、騙されないようにね。
 * カボッション:楕円形に角を取らずに磨くカッティング方法。トルコ石など不透明な石に多く用いられる。

 「ジュエリーコネクションシリーズ」は長いシリーズなので、5大宝石*と言われるものはほとんど取りあげてきましたが、まだモチーフにしていないもので「これを使って下さい」という要望が多いのは「アレキサンドライト」でしょうか。
 ララで、成田美名子さんが作品のタイトルにもしていらしたのでご存じの方も多いでしょうが、アレキサンドライトというのは、自然光の下では赤、人工光の下では緑に見えるとても不思議な石です。  もちろんこれも大変希少性の高い石なので、色の変化が大きくて綺麗なものは目が飛び出るほどの値段がついています。
 一口に「赤と緑」と言っても、なかなかピンとこないかも知れませんが、赤は暗めのガーネットのような色、緑もトルマリンなどのように暗緑色をした石です。(さすがにルビーとエメラルドのような色にはならないようですね)
 色が変わる石なので、ミステリの題材にするなら真っ先に「赤い石の指輪をした女」が目撃されたが、該当する女がしていたのは「緑色の指輪」だった。というような話を思いつきますが、まあ、そんなに単純にはいきませんね。これをそのまま描いたら、せっかくついた読者が呆れて離れていってしまうかも。(笑)
 でも、神秘的な石なので、いつかは使ってみたいと思っています。
 * 5大宝石:一般にはダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルド、翡翠を指す。

 反響と言えば、実は読者からのお便りが一番多いのは、「ジュエリーコネクションシリーズ」そのものではなく、コミックスに同時収録されている「A little man have a big wife」だったりするのです。う〜む。
 これは、私が結婚指輪を買ったときのエピソードをエッセイ漫画にしたものですが、夫と私の指輪のサイズが大きく違うので(もちろん私の方が大きい)注文した店側が戸惑ったという内容ですが、自爆覚悟で描いたことを、けっこう笑ってもらえたようなので、嬉しいやら悔しいやら。(笑)
 また、機会があったらああいう短いエッセイ漫画も描きたいと思っています。

 さて、つたない文章におつきあいいただきありがとうございました。「宝石が好き」の一念で書いたエッセイでしたが、書いている私はとても楽しかったので、「ジュエリーコネクションシリーズ」読者の方にも喜んでいただければ幸いです。

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